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ヒユーマンエラーの防止
大阪商船三井船舶 山崎正敏
多国籍の外国人が混乗する船舶がその主流を占める現在、海難事故の約8割がヒューマンエラーに起因すると言われている。海事産業研究所の長塚部長による研究・調査「世界/日本の船舶海難事故の分析と今後」の中で、配乗形態の変化と言う視点からの事故原因を以下の3点として考察されている。
?乗組員の運航技術の未熟さ
?言語、食生活、習慣、宗教などの異なる外国籍人種間のコミュニケーションの欠如
?船長や幹部のリーダーシップの問題
何隻かの混乗船に乗船した私自身の経験からも的を得たご指摘だと考えているが、今回私に与えられたテーマであるヒューマンエラーの防止と言う点から、上記の3点について船を動かす側からみた若干の私見をISM CODEとの関連を踏まえ乍ら簡単に述べてみたい。
?先ず原因の第1とされる「乗組員の運航技術の未熟さ」については、私共日本人乗組員の技術レベルの維持と言う問題を含め、徹底した教育・訓練の実施とその過程における適切な評価手法の確立がなににも増して重要であると思う。現在、良質な船舶管理業務を行っていく為には質の高い乗組員を確保することが第1義であるとして内外の主要な船主や船舶管理会社がその体制作りに力を入れている現状からも十分お分かりいただけると思う。
?原因の第2である「多国籍人種間のコミュニケーション不足」これも又大きなテーマであります。ISM CODEに関する内外の色々な情報を読んでいますとQUALITY SYSTEMを容易に作り上げるには国籍、言語、教育、そして文化面でのUNIFORMITYが必要であるとの意見や陸上と船相方の人間集団が同一の言語を喋り、同一のバックボーンを持っていてこそ初めて完成度の高いシステムを構築できるとし、文書化を主体とする船舶管理制度の有効性を危倶する意見も見られます。いずれも正論ではあると思いますが、安全運航の為の多国籍人種間のコミュニケーションを確保する一つの手段として各作業毎に文書化されたマニュアルが有効な道具であることには違いないと私は思っています。
唯、船上での作業は刻々と変化する四囲の環境の変化に対応し、如何に素早く処理できるかといった応用問題の連続であり、この意味で文書化されたマニュアルがあればそれで全てと言う世界では勿論ないと思います。コミュニケーションの道具としてマニュアルをとらえれば、やはり、より簡潔なスタイルとし、例えば各作業毎のチェックリストの多用化など、現場の実務に則した構成とすることが必要であると思います。
?原因の3つ目である「リーダーシップの問題」についてですが、今更申し上げるまでもなく船の世界は緊急時の即応を含め完全な縦社会を形成しておくことが必要であり、この関係が崩れればたちまちのうちに事故に繋がる不安定要素を多く抱え込むことになってきます。この辺りは、混乗と言う形態のなかで先程ふれたような言葉の問題やお互いの育った環境や文化の違いが一つのネックになっているのではないかと思います。
先程申し上げたコミュニケーションを図る道具としてマニュアルを最大限利用し、船内組織のなかでのそれぞれの役割分担や指示系統を常に明確にし、乗組員に対し明確かつ妥当の指示が与えられる

 

 

 

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